君がいるということ。
お嬢様……?
詩花の憂鬱さが、また一つ増した。
比較的、楽しいことにしか興味がない詩花にとって、今の現状は牢獄に近い。
「駿河詩花」
短くそれだけ答えた。
ダンスの曲が変わる。今度は滑らかな曲だ。
しかしそれは作曲者の野望なのか、徐々に激しさが生まれ始める。サビは嵐の中でバラードを懸命に奏でているようだ。
「駿河詩花様かあ。じゃあしい様でいいかなあ?」
美咲があたかもグッドアイデアとでも言うように提案する。
「マジ勘弁してください……」
「大丈夫。しい様はみいのこと、みいってよんでねえ」
「大丈夫の意味が分かんねえ」
最近テレビの影響で、なんとか星とかなんとか王国とかの出身を名乗る人が増えてしまったのだろうか。
どっちにしろ、詩花とは次元が違いすぎる。
「……で、黒川さんは何であたしを呼び出したわけ?」
「やあん。みいって呼んでくださあい」
四方八方からことなる曲が空気をけちらしていく。これじゃあまるで酸欠状態だ。さらにそこにチアリーダー部のファンシーな音まで乱入してきて、もうどの音がどの曲のものかもわからない。
詩花はイライラの最高潮を感じた。