君がいるということ。


 二人の騒がしい声が、教室のあらゆる声に吸い込まれていく。

 皆それぞれが自分の世界の会話に必死で、他のものをわざわざ聞く暇など無いのだ。

 授業中、眠気を飛ばすために頭を叩かれるようなチョークの音も、男子が黒板に落書きする中では、場を盛り上げるドラムの音となってしまう。

「ったく、朝っぱらから口わりー会話してる女がいると思ったら、やっぱりおめーらかよ」

 そんな中、二人だけを感じる人もいる。

 人は皆、興味がある方向に進み続ける。

「は? おめーが一番口わりーよ」

 挨拶も無しに始まる会話。

 碧は大胆に登場して見せた坂岸 優(さかぎし ゆう)を笑いながら小突いた。

「お互い様お互い様」

 詩花のその言葉を機に、新しい会話が始まる。

 友愛の精神だとか、まだまだ全然分からないけど、楽しければそれでいい。

 幼いときよりも、年月の薄い友達と気軽に笑いあえるようになったことに、詩花は安心していた。

 この年で、つまらない、くだらない一日が特別に思える人なんてほんの一握りの人だけだ。

 呆気なく終わるからこそ、楽しいのかもしれない。

 詩花はそう思っていた。


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