君がいるということ。
「うっせーなあ」
興奮すると大きくなる美咲の声に、耳をふさぐ。
そして詩花はまた美咲に背を向けながら、「誰も友達になんねーなんて言ってねーだろ」と、階段の反響を利用し、小さく言った。
そのまま階段を上っていく。美咲はその背中を、見つめていた。
縛られていた後の解放感に、身をゆだねているようだった。
足枷をはずし、海に浮かび、そのままどこかへ流れ着くまで、ずっとこうしていようと考えているように。
見上げる太陽はまぶしく、冷たいはずの水は温かく、重い瞼は、光を赤く染める。
初めて出会うその世界は、美咲の心に優しく降りつもっていく。
暗い階段のただの踊場。
そこにさっきまで詩花がいて、自分と会話をして、自分がビックリするぐらい本音で話をできた。
美咲はそのことを仕切りに思い出しながら、詩花の言葉に、唇の端を上げ、静かに目を閉じて、波を感じた。