君がいるということ。


 手元にある、詩花のノートの文字の配列を、臣は注意深く感じ取っていた。

 誰もいない教室に、机に適当に座った臣の白いワイシャツが、くっきりと反射している。

 ワックスでお洒落に盛られた髪は、詩花ほどの輝きは持たないが、それでも夕日に照らされてよく栄えていた。

 木のにおいが今にも鼻に舞い込んで来そうな、ありふれた教室の風景。

 その中心とも言える詩花の机を見て、臣はもう一度ノートに向きなおした。

 普段では見えない繊細な心を持っているのか、それとも皮をかぶっているだけなのか。

 持ち主とどう考えても一致しないそのノートは、いつの間にか臣の癒やしの物語となっていた。

 特に放課後のゆっくりと過ぎる時間の中で読む、この瞬間は、いっそう言葉が美しく見える。

 バックはある。

 詩花がいないことに落胆していた臣が、しばらくして、やっと見つけた手がかりだった。

 そして、バックがあるならノートもある。と違う方向へ結びつき、今は、ノートがあるなら内容が読める。と詩花を待つこととは全く関係のない方角へと、臣の思考は進んでいってしまっていた。


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