君がいるということ。
手で触れれば粉となって散ってしまいそうな光りを四階に入ったばかりのところにある談話室の小さな窓から受けながら、詩花はすぐ右の五組に進んでいた。
不思議な感覚だった。
詩花にとって友達に原則も概念もないが、どうやら美咲にとっては違うらしい。
ただ普通でいるということがそんなに難しいことなのか、詩花には理解できなかった。そして考える。果たして自分は、本当に普通でいるのかと。もしかしたら自分もどこか飾っているのではないかと。
おぼつかない詩花の足取りは、躊躇いの念が垣間見えていた。
五組の入り口につき、ふと、衝動的に足を止める。
夕日を顔に眩しく受けている詩花とは逆に、逆光で白のはずなのにどこか暗い臣のワイシャツが、小さくなっている姿が見えた。
動きそうで動かないその背中の左側に微かにノートが見える。
しまった……。
詩花はドアに左肩を預け、うなだれた。
重ね重ねになるが、やはりバックを持っていくべきだったのだ。
詩花はそのまま立ち尽くす。
詰め寄るには間を置きすぎで、立ったままでいるのは少し悔しい。