君がいるということ。


 全てにおいて、今の状況は中途半端なのだ。

 詩花は手段が他にあるとは思えず、五組から一度遠ざかろうと、左肩をドアから持ち上げた。

 静かすぎる廊下も、それに付属している教室も、物事を余計に考えさせる。さらにそれは皮肉なことに、ネガティブなものばかりで埋め尽くされている。

 先ほどの疑問が詩花の頭に流れ続ける。

 そもそも普通とは何なのだろうか。

 五組のドアの影に詩花の体が全て隠れ、一瞬光が消えたとき、「詩花、来いよ」と、微かに声がした。

 詩花は驚き振り返り、顔だけ、さっきの場所に戻した。

「そんなとこに突っ立ってんなよ。バレバレなんだから」

 臣は振り返り、やっぱり、という目で詩花を見つめている。

「……何でわかったん?」

「足音。俺、耳いーから。それにこんな時間に来るのは詩花しかいないと思うし」

 詩花は観念し、速やかに臣のそばの自分の席の前に来た。

「おまえ、あたしじゃなかったら盗難で捕まるからな」

 先ほどとなんら変わらず、臣の手の中にあるノートを奪い、バックにしまう。

「楽譜持ってきてくれた?」


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