君がいるということ。
しかし当たり前だが、覚えていないものは覚えていない。
詩花は臣の視線の強さに、少々頬を赤らめざるをえなくなったが、なんとか次の言葉まで辿り着いた。
「あたしさー。メイド顔っつーか……萌顔っつーか……すんげえよく言われるんだよねー。声も高いし……」
話すときの癖なのか、詩花は窓の外を見つめて言った。
臣は詩花の顔を見つめ、「あー……確かに」ともらした。
「でも言われるまで気づかなかった。詩花はそれよりも口調が超強烈だかんな」
「うっせーよ」
詩花は小さく口を挟み、黙々と空を見ていた。
光が失われ、黄色の線が空と地面の境に引かれている。そこをスタートラインとして競争するように、鳥が鳥を追いかけ、飛び出していく。
「お。今日(いまひ)が始まった」
臣が詩花の机に手をつけ、窓の外を見つめながら言う。
「いま……ひ?」
「昨日言ったっしょ? あの黄色の世界に、今日が全部つまってるって。“夕日”とか“朝日”みたいに、名前つけたんだ。“いまひ”って。今日を訓読みにして今日」
「今日ねえ……」