君がいるということ。


 噂は好き放題流れているようだった。

 二人は付き合った記念にライブをやる、実は生き別れの幼なじみで、再会を機にバンドを組んだ、臣が詩花を狙っている……と、数人で話した瞬間に全てが食い違うようほどのバリエーションがあちこちで咲き乱れている。

 もちろん詩花は迷惑していたが、噂を否定して歩くなど、面倒臭いことはしたくない。

 時に真相はどうなのかと質問されることもあったが、全て「好きに好きなものを信じたらいーよ」と二言目を言わさずに断ち切っていた。

 一方の臣は、果たして噂を知っているのだろうか。知ったとして、それが自分と詩花の事であるとちゃんと気づくであろうか。もしかしたら、噂を信じてしまう可能性も、大いに考えられる。

 詩花は今日一日、特にLHRのときの出来事を恨むように、赤く染まり始めた夕日を見ていた。

 時間は自分自身に降りかかった災難を知った時間から、二時間以上がたっている。

 特に臣を待っているわけでもない。

 ただ、バックの中と自分が繋がり、温かみを帯びた何かが胸に流れるような感覚がして、詩花はその場を動けずにいた。


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