君がいるということ。


「あ、そうそう。それなんだけどね。バンド名は何がいい?」

「………」

 詩花は救いようのない臣の行動に、目を半開きにして眉をよせた。

 詩花の長いまつげが、夕日に透き通る。

「詩ー花っ。一緒に考えなきゃ! 俺達チームなんだから」

「……幸せって何だろう……」

 泣きそうな声で呟くと、詩花はそのまま机に倒れ込んだ。

「え? 俺? 幸せだよ?」

「誰もそんなん聞いてねーよ」

 せっかく軌道に戻した話題も、すぐに臣の手によって脱線してしまう。

「ほら詩花。起きてっ。名前早く決めなきゃ文化祭担当のセンセーに怒られる」

「てめーは既にあたしのこと怒らせるようなことしまくってんだよ!」

 顔を上げ、手のひらで机を何回も叩いた。

 手は赤くなったが、机はびくともしない。

 しかし詩花の目に入った臣は、見ていない間にとんでもないことをしていた。

「ちゃーんと楽譜持ってきたんだねー。えらいえらい」

「おい! てめえ! また勝手に……」

 数十枚もの楽譜が、映画で聞くような乾いた音を立てながら、臣の手にめくられている。

 それは紛れもなく、詩花の持ってきた全ての楽譜だった。


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