君がいるということ。
そんな鋭意な状況の中、臣はおもむろにギターのバックのチャックを開けた。
取り出したそれをあぐらをかいて構えると、四拍子のバラードのようなメロディーが始まった。
決して細かくメロディーを刻んでいるわけではなく、伴奏のように和音が鳴っているだけなのだが、どこか美しい普遍的なものを漂わせている。
前奏が数秒続き、臣は大きく息を吸って歌い始めた。
詩花が初めて聴く曲だった。
ゆっくりとした歌い始めは、大きな波を持たずに、安定したメロディーをなぞるが、少しずつ冒険に出るように、その安定が乱れていく。
臣の声は、その性格をそのまま空気にしたように、どこまでも透き通っていた。
喉ではなく、喉のもっと奥の、普通の人には無いような場所から、揺れる細い湯気のように声が出ているようだった。
歌詞の意味を考えたり感じたりなどはたった一度聞くだけではできないことだが、でもどこか、優しさで満ち溢れているように優しくメロディーにのっているように思える。
臣の声が一番の盛り上がりを迎える。多分サビなのだろう。