君がいるということ。


 昔、誰かが言っていた。

 時間ほどあまのじゃくで、気まぐれなものはないと。

 楽しい気持ちを読みとり、時間は早く腕を回す。逆につまらない気持ちを感じたときは、これでもかと言うほど長く自分をのばした。

 それは時間も生きているかららしい。

 自分以外の人が目の前で楽しそうにし、自分だけが置いてけぼりは誰だって嫌いだ。だったらその時間を短くすれば、嫌な気持ちも短くてすむ。

 また、目の前でつまらなそうにしていたら、優越感を感じて、その時間を長くするだろう。

 時間とは自分勝手で、そして莫大な力を持っている。

 その力は命を産み、命を消し、そしてまた命を産む。誰も予想できなかった科学を作り、誰も予想しなかった悲劇を起こす。

 それは全部人間の仕業だと思うだろう。だが違う。全て時間がなかったら有り得ないことなのだから。

 そして、こんな言葉を思い出すのもまた、時間の仕業である。

 詩花は“いまひ”を一人で見つめ、ふと臣を思い出した。

 帰り道。

 時間に追いやられた夕日が、最後の今日を見せながら、街頭に紛れて去っていく。


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