君がいるということ。
例えば今、自分がゆっくり自転車をこいでいるのも、バックが少しカゴからはみ出しているのも、街頭の作った影を見つめるのが好きなのも、全部全部時間の仕業なら、臣とさっきまでのような時間を過ごしたのも時間の仕業なのだろうか。
詩花がそう考えると、悔しい気持ちと嬉しさを認めたくない気持ちが浮遊する。
後者を振り払い、逆らうように思いっきりペダルを踏むと、やけくそに抵抗している自分がいやになり、自転車を止めた。
しかし、止まったってどうしようもない。
詩花はもう一度自転車を強くこぎはじめた。
目の前に見える黄色い今日を目指し、後ろから追ってくる、まだ真っ暗な明日から逃げるように。
どこまでも走る気持ちでこいだ自転車は、自宅の前で不本意にもブレーキを使う。
詩花はしぶしふ自転車からおり、小さな庭にとめると、憂鬱そうにドアを開けた。
ただいまのあいさつもそこそこに、すぐに二階の自分の部屋に入り、ドアをしめる。
なんとも言えない気持ちで、座るのさえ考えられず佇む詩花を見つめながら、それでも一向に今日と明日は混ざろうとはせず、ただただ時間に従い、歩き続けるままだった。