君がいるということ。


 授業が終わり、HRをそわそわと過ごし、自分が掃除当番ではないことを確認すると、臣はギターを背負い、教室を飛び出した。

 文化祭までもう日数が無いというのに、詩花の歌声をまだ一度も聞いていない。

 楽譜を受け取った日のうちに選曲と編曲はすませたが、翌日に美咲が押し掛けてきて、また詩花とトランプをしてしまったり、クラスの買い出しに付き合ったりで、ちっとも二人きりになれるタイミングが無かったからだ。

 その中で臣にとって意外だったのは、美咲と詩花が仲良く話していたことだ。若干美咲が一方的な気もしたが、詩花も心から拒否はしていないようで、メールアドレスも素直に教えていた。

 目の前で行われる赤外線通信の光景に臣も便乗し、詩花のメールアドレスをゲットしたのはいいが、付属品のように、美咲のメールアドレスも無情にも登録する羽目になったのは痛手だった。

 決して美咲が嫌いなわけではない。

 ただ、何かをかぶっているような身振り手振りが怖いのだ。

 しかし詩花は詩花で、美咲の態度の変化には、少々疲れを感じていた。

 二人きりのときの美咲は好きだが、誰か他の人がいるときの美咲はどうしても好きになれないのだ。


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