君がいるということ。
入学したての頃、会って間もない友人との時間を伸ばすように居残っていた放課後の教室。
今は誰もいない教室を見渡しながら、竹中 臣(たけなか じん)は自分がのっぺらぼうに映っている、足元のタイルを追いかけていた。
鳴っているのかも分からない足音が、歩く速さにあわせて聞こえてくる。
光が一番当たっている場所に引っ張られるように、臣は五組の後ろのドアの前に立った。
「あれ?」
誰もいないと思っていた教室に、誰かいる。
臣は机に寝そべっている詩花を見て首を傾げた。
詩花は声とともに目を開き、ゆっくりと起き上がって、声の発信源を探した。
ゆったりとした時間が流れているからか、さほど驚いたりはしていない。
「何やってんの?」
臣はそんな詩花を特に不審にも思わず、お決まりの言葉を発した。
「いやあ……。光合成?」
「は?」
危険は無いと判断したのか、臣は教室に入り、詩花の元へと近寄っていく。
臣が背中に感じる重さを忘れ、日の当たるその場所につくと、詩花は急いで開きっぱなしのノートを閉じた。
「何それ」
その行為があからさますぎて、逆に臣の好奇心をくすぐる。