君がいるということ。
「じゃあ詩花も俺のことポチって呼ぶん?」
「ぜってー呼ばねー」
それだけ答えると、詩花は力が緩んだ臣の手ごと、優の方に向き直る。
しかし臣はまたもや詩花の頭をまわした。
「歌の練習しなきゃだよ!」
「わあーってるよ! 手え離せや!」
詩花は右手で頭の上にある臣の手を振り払うと、今度こそと言うように、優ともう一度向き合った。
そこに碧が加わったとき、詩花は今度は手を、思い切り引っ張られた。
堅くて大きな手と言うことから臣のものだとはすぐわかったが、それでも不意すぎて、詩花は驚きで衝動的に手を振り払おうと暴れた。
が、臣の手は緩まない。
「んだよおい! はなせよ!」
「詩花! 非難するよ!」
「は? なんで……」
詩花の質問が終わらないうちに、臣は手を握ったまま教室を飛び出し、六組のそばのプールに続く階段付近へと逃げ込んだ。
驚きによっての動悸と、いきなり走らされたことによっての息切れで、詩花は足が止まった途端にその場に座り込んだ。
「一体なんなんだよ……」
その二つの間を見計らいながら、詩花が苦しそうな声を出す。