君がいるということ。
特に詩花に用があった訳ではない。
ただ、話がしたかった。
そんな感情を背負っている美咲の背中を臣は遠目で見ながら、「詩花。任務完了だよ」としゃがみこんでいる詩花の手を握って立たせた。
「いつかてめえにどんな形でもいーから、今までのめちゃくちゃなことの仕返ししてやる……」
悔しいほどに息切れをしている自分に腹を立てながら、臣の手の温もりに動機を起こす。
「え? それって俺に言ってる?」
「他に誰がいんだよ!」
「……ケサランパサラン?」
「だからおまえはなんでそう……いきなり意味不明なことを……」
突っ込むことさえ疲れ、詩花は何も言わないよう心がけると、驚くほど早く息切れが治まっていく。
しかし動機の根元は未だ絶たれず、詩花は自分の右手の力を緩めながら、「手え離せよ」と臣を睨んだ。
「息切れ詩花さん大丈夫なん?」
「うっせ。いいから離せ」
「お姫様抱っこの方がいいの?」
「なぐんぞ」
やっと離された手に、少しだけ臣の温もりを感じ、詩花は手を握りしめた。
何とも言えない感情は、久しぶりに男子と手を繋いだからだと、詩花は自分に言い聞かせた。