君がいるということ。
臣は眉間にしわを寄せている詩花の顔を両手で挟み、眉毛を左右に引っ張ってしわを伸ばしながら、「決定ー」と微笑んだ。
「は? 大体おまえんちどこだよ」
「ここから徒歩で約五分。チャリなら信号に引っかかんなけりゃ一分で行けるぞい」
「ちかっ!」
「ね。近くていいっしょ? ほら行くよー」
臣は詩花の顔を挟んでいた手をどかし、もう一度詩花の手を握って引っ張った。
詩花は抵抗しても無駄だと感じ、腹をくくった。
男子の家に行くなんて小学校以来だ。
緊張で手が汗ばみ、臣の手との少しの空間に、湯気のような暖かみがほとばしる。
「あれ? 詩花帰るん?」
教室に手をつないだまま入ると、手元に微妙な視線を受け詩花は臣が油断しているうちに、さっと手を離した。
あやながクラスの看板を描くべく、ベニヤ板に下書きをしながら、寂しそうに言った言葉に、詩花はムッとし、詰め寄った。
「あやながあいつに変なこと言うからこんな事になっちまったじゃねーか!」
「変なこと?」
「あたしは歌うまくねーだろ!」
「あー……」とあやなは思い出し、少し笑って答えた。