白と黒のフィス
「お連れさんは何にするかね」

 マスターが私に聞いてきた。

 一度右に座っている彼を見る。

 彼は、私を見ながらくいっと顎を動かした。

 何か頼めって事らしい。

 私は、少しだけ首を傾げて頼んでみた。

「酪茶をください」

 酪茶は、醗酵させた茶葉に暖めたヤギの乳を注いで作るお茶だ。

 独特の癖があって、故郷ではよく飲まれていた。

 ちなみに、そのまま醗酵させると酪酒というお酒にもなる。

「お客さん、運がいいね。今さっき、酪酒の仕込みで作ったばかりだよ」

 そう言ってマスターは黒い陶製のマグカップを取り出し、赤いホーローのポットから酪茶を注いだ。

 そのついでに、ヒュードが置いた硬貨の山からいくらかかすめ取って行った。

「いただきます」と小さく言って、暖かいマグカップを両手で持って、口を着けた。

 独特の臭みと茶の香りが鼻孔を抜ける。

 コクのある甘味が舌の上を滑り込んでいく。

 歩き疲れた身体に、褐色の酪茶がしみ込んで行くようだ。
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