桃染蝶
盛り上がる部屋を抜け出して
一夜は、料亭の廊下で一人
煙草を吸っている。

見つめる窓には

きれいな満月・・・

「はあ、疲れた」

一夜が、深く吐いた息には
煙が混ざる。

白い煙は、窓に浮かぶ

満月にまとわりつく。

こんな夜は、誰かの温もりを

感じながら眠りたい・・・

その時、座敷から出てきた
夫婦の姿が一夜の瞳に映る。

「ほらっ、そこ
 
 段差、気付けてな」

「うん、わかってるよ」

身重の妻に優しく手を
差し伸べる夫。

仲睦まじい、夫婦の姿に
一夜の顔が優しくなる。
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