桃染蝶
そして、眠る花夜子を腕に
抱き、冷たい頬に自分の頬
を寄せた。

最後の抱擁

最後の時・・・

死の前では、もう兄でも
妹でもない。

一夜は、花夜子の頬に
そっと口づけた。

一夜の瞳から流れ落ちる涙・・

病院の廊下、冷たい椅子に
腰をかけ肩を落とし泣き崩れる
母の傍に一夜はそっと近寄り
震える肩に手をおいた。

「母さん、カヤの死に顔は
 とってもきれいだったよ」

「そう、よかった・・・」

「父さんは?」

「あそこ、今は
 そっとしておいてあげて
 カヤコは私達の自慢の娘」

窓際、肩を震わせて泣く父の
背中が見える。

「イチヤ、カヤコの遺書には
 何が書いてあったの?
 
 読ませてはもらえない
 かしら・・・」
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