桃染蝶
「何よ、もう知らないから」

布団の中、着替える女の
ヒックとしゃくり泣く声が
聞こえてくる。

うぜえ

「マジ、うぜえ」

布団を剥ぎ、起き上がる一夜は
髪をボサボサに掻きながら言う

「こっち、こいよ」

女は、一夜に背を向ける。

「早くしろ」

女は、一夜を無視し続け
何も言わずに帰る準備を
ただ進める。

「俺が悪かった
 
 メイ、ごめん

 おいで」

女に謝るなんてこと、今まで
無かった、俺。

おまえは、俺にしがみ付き
涙声で言う。
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