桃染蝶
『なあ、カヤ
 おもしろいだろう?』

貴方の微笑みは、この私だけ
に向けられていた。

貴方は、その声で、彼女の
名を呼ぶの?

『カヤ、待て

 カヤ、行くな』

『カヤを頼む』

あれ以来、貴方が私の名を
呼ぶ事は無い。

もう、きっと二度と無い。

私達は、お互いに歩み寄る事
はなく無視を続け相手の存在
を消し去る。

夜の町に生ける私と極道社会
に棲む貴方、偶然に出会う事
それは思ったよりも容易い。

私達は出会う度に、知らない
人を装う。

顔も見た事無い、知らない人。
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