藤井先輩と私。
 
「…陽依?」


白のTシャツにラフな短パンをはいてマンションから出てきたのは、藤井先輩その人。


「せん…先輩!?」



「見るな!減る!」


私が藤井先輩に近づこうとすると、“アンナ”は私と先輩の間に立って通せんぼした。

「減るって…お前なぁ」


「悠太は黙ってて、これはウチとこの女の問題や」


藤井先輩は状況が読めないらしく、頭をかいて「え?」と一人、ポカーンとしている。

「さ、帰って」

「いやです」

「帰りや」

「帰りません」

「しっつこい女やなぁ」

「はい。分かってます」


ここで引き下がるわけにはいかない。

せっかく先輩がそこにいるんだ。
聞かないと!


「先輩!藤井先輩!」

「お?なんや?…まぁ、立ち話もなんやからウチあがって」

「悠太!」

「なんや、2人いつの間に友達になったんや?聞いてへんで」


「だれがこんな女と友達にならなあかんねん!」


「え?違うんか?」

先輩には、私と“アンナ”が仲良くじゃれ合っているように見えたらしい。

「でも、ウチあがって、せっかくやし」

「悠太ぁ!」


先輩は、怒る“アンナ”さんを無視して、マンションの中に入って行った。

とりあえず、私も着いていく。


エレベーターに乗り込むと、先輩は30というボタンを押した。

エレベーターは入り口と反対側の壁がガラス張りになっていて、街並みが一望できるようになっていた。

どんどん地表が遠くなる。


「すごーい」


と感嘆の声を漏らすと、「は?」と“アンナ”が鼻で笑った。
 


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