藤井先輩と私。
 
切符を買い、改札を通って駅のホームに並んで立つ。


「すまないね。ついてきてもらって」


「いえ、私も暇を持て余していましたから」


「そうか。…君は中学生?」

「いえ…高校一年生です」

「えっ!?」

そんなに驚いた顔しなくても。
私って幼く見えるのかな。

まぁ背低いしね。


「僕にも同じぐらいの息子と娘がいるんだよ」

「お子さんがいらっしゃるんですか?」

「見えないかい?僕はこれでも40代なんだけどな」

40代には絶対見えない。

身長高いし、顔とか芸能人並みに綺麗だし…それに、姿勢とか動きとかが紳士的すぎて二児の父っぽくは見えない。


「昔はこっちに住んでいたんだけどね、引っ越してからもう何年も経っているから、土地勘とか忘れちゃってね。迷ってしまったよ」


土地勘とか、もうその域の問題ではないような。


「今はどちらにお住みなんですか?」


「大阪だよ」







その瞬間。


なんだか、頭の中に藤井先輩の顔が浮かんだ。




「……ぼーっとして、どうしたんだい?電車が来たみたいだよ」

「あっ、はい!ってそっちの電車じゃないです」


逆方向へ向かう電車に乗ろうとするジェントルマンを止めて、○△町を通る電車へ連れていく私。



「君がいなかったら、きっと僕はずっと彷徨ってただろうね。ありがとう」


走り出した電車の中で、ジェントルマンは満面の笑顔で私に言った。


優しい表情のジェントルマン。

藤井先輩のお父さんはいったいどんな人なんだろう。

同じ大阪の人なのに流暢に標準語を話しているジェントルマンと、コテコテの関西弁を話す藤井先輩を比べて、ふと私はそう思った。


 

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