藤井先輩と私。
―――藤井side




俺の家は、母さんと親父、妹の4人暮らし。

妹はまだ3歳で幼かったから、俺がいつも面倒を見てた。

母さんは、いつもテレビに映る親父の顔を見てニコニコして、掃除したり、俺達の相手をしたり、良い母親だった。



俺の親父は、建築家で、最初にデザインした家が何かの有名な賞を取ったらしく、テレビやら依頼やらで引っ張りだこ。

小さいころから、親父は家にあまりいなかった。
家にいるほうが珍しかったくらいだよ。




「ねぇ、ママ…パパは?」


「ん?パパ?…パパはあそこよ」


にっこり笑って答える母さんは、テレビのほうを指差していた。


「悠太のパパはすごい人なのよ。とっても」

そう答える母さんはとても幸せそうで、親父がいない寂しさとか言ってはいけないと、子供ながらに思ったものだ。



















ガチャ



「ただいま」


「あら、あなた?」



ドアが開き、親父がキャリーバックを持って現れた。


「パパ!」

「…着替えを取りに来ただけだ。すぐ仕事にもどる」


走り寄った俺を無視して、親父は2階の自室に入る。

「…パパ…」


落ち込んだ俺に、母さんは近づくと、そっと頭をなでて


「パパ、お仕事で疲れてるのよ。大丈夫、悠太のこと忘れてなんかないわよ」


と少し悲しそうな目で笑った。




 

< 201 / 361 >

この作品をシェア

pagetop