藤井先輩と私。
あの小さな異変のから10日経った日の事。

朝、眠気眼をこすりながらリビングに行くと、珍しいことに親父がいた。


「パパ?」


「……悠太か」


久し振りに聞く父の声。

こんな声だったかなと、親父の声を忘れかけていた自分におどろく。


テーブルの椅子に親父と母さんが座っていて、二人でコーヒーを飲んでいるようだった。


「そろそろ支度しなくちゃ。今日は保育園の日だから」


俺を見た母さんは、急いでエプロンを腰に巻くと朝食の準備に取りかかった。

キッチンに立ち、食器乾燥機の下方からまな板を取りだす。


俺は、親父の方に駆け寄った。

無言で親父を見つめる。

親父は黙って俺の頭をなでた。

「パパ…」


「…そろそろ、仕事行く」

俺の頭をなでながら親父は言う。


「あら、朝食あなたの分も用意してるのよ?」

「時間がない」

「そう。…じゃあ、お弁当だけでも」

母さんは、準備しておいた弁当箱を手に持つ。

「…弁当はいらないっていつも言っているだろう?」

「そ、そうね。でも、コンビニのばかりだと栄養が…」

「いらない。もう時間だ。行ってくる」


この時子供だった俺は、分からなかったけれど、あの頃から成長した今では、この親父の態度が許せなくてしかたがない。



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