藤井先輩と私。
バタン!



「陽依!さっきからバタバタ走りまわって、ドアも乱暴に開けて、落ち着きなさい」


扉を開いた瞬間、鬼のような形相のお母さんが待ち構えていた。


「だって時間がないんだもん!」


「それは陽依が昼寝なんてするからでしょ!」





「それくらいにしてやらないか。今日はお祭なんだ」


腰に手をあてているお母さんの後方からお父さんの声がする。

今日は、お父さん仕事休みの日だ。


「お母さん!浴衣着せてよ」


「もう!高校生なんだから自分で浴衣ぐらいきなさい」

「えぇ~」


神様に見放された気分になった。

自分で着るとなると、きっと1時間といわず3時間ぐらいかかる。


泣きべそかきそうになっていると、


「ふっ、しょうがないわね。ほら陽依こっちに来なさい」

と優しくお母さんが手招きした。



浴衣の着付けが終わると、お母さんのドレッサーの前に座らされる。

「え?」


「そんなボサボサの髪型で行くつもりなの?」


鏡に映る自分を見る。

家じゅうを走り回ったせいか、髪の毛はヤマンバのようになっていた。


「お母さんが魔法をかけてあげる」


そう言って、櫛で髪をとかし始める。


私は頷いて、瞼を閉じた。



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