藤井先輩と私。
 
「…り?…陽依?」


「あっ、はい」


「なんやぼーっとして、人酔いしたか?」

「いえ、大丈夫です」


ばっと右ほほに添えていた手を下すと、ずっと左手ににぎったままの携帯を見る。


この人の多さだし、私小さいし、先輩とはぐれてしまいそう。

電話番号くらい教えてもらっとこうかな。


「あの、先輩?」


「なんや?」


「もし迷惑じゃなかったら、携帯番号教えてくれませんか?」


うかがうように、先輩を見上げる。


「うへぇ!?」


飛び上るように先輩は一歩下がる。


「や、いやならいいんです!大丈夫です!」


ちょっと悲しいけど。


「ちゃうちゃう!驚いただけや。いいよ。番号交換しよう?」


あ、嫌なんじゃないんだ。
よかった。


「私、背が小さいですし、迷子になってしまったらどうしようかと思って…」

「そうやな♪そんときは俺にすぐ電話するんやで?今日じゃなくても、迷子になったらいつでも駆け付けるからな!」


先輩はポケットから携帯を取り出して、赤外線の準備をする。

「ありがとうございます!先輩」

「こちらこそや!」


うれしそうに笑う先輩を見ていたら、なんだか私もうれしい気持ちになった。




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