RedZone
夜の10時、健康的な母はもう寝ている時間。
9時に寝て5時に起きる母は成人としてはかなり珍しい部類だ。
携帯のバイブが鳴る。
こんな時間にかける人なんてほぼ分かりきっているけど、一応相手を確認して通話ボタンを押した。
「おはおは~。どしたの?」
「おはおは~。今日いまから1時間後、会える?」
「うん、行けるよ。いつものカラオケ?」
「そそ!新曲用意して待ってるから、楽しみにしてて?」
「ほんと!?楽しみ!すぐ行くね!」
RedZoneの新曲。そういえば前、制作中とか言っていた。
ゆるむ口元を抑えきれず上機嫌にドレッサーの前に座った。
胸まである髪をがっつり巻いて、色入れた華美なメイク。
幸いハーフ系の彫りの深い顔なので化粧に負けることはなく、我ながら似合っていると思う。この遺伝子に感謝だ。
髪と化粧に服も系統を合わせたら完成。
うん、やっぱり普段の地味な服よりこっちのほうがわたしらしい。
こんな恰好母に見られたら卒倒しそうだけど。
せめて7時には家に帰って来いという母の言葉が浮かんだ。
うん、ちゃんと朝の7時までには帰ってくるよ、なんて冗談をこっそりぬかしつつ。
ちょうど日付が変わる1時間前、母の部屋のドアに耳を当てて寝ていることを確認してダッシュで家を出た。
嘘はついてないけど、約束は破ってる。
少しの罪悪感と優越感が心地よかった。