しつじがいっぴき。
急すぎる来訪者
「ただいまー」

誰が居るわけでもないのに、あたしはそう言って玄関のドアを開けた。家に入る。
うちは12階建てのマンションの3階。301。ボロくはない建物だけど、立派だとも言い難い。あたしは中1の頃から、ここで一人で暮らしている。

父親は、小さい頃、他に女の人をつくって出て行ってしまった。
それからあたしは母さんと二人で暮らしてたけど、中1の頃、母さんも忽然と姿を消した。
部屋には置き手紙があった。
『アキラへ。お母さんは、大好きなあの人のところに行きます。』
そんな言葉から始まる文章。何それ。ふざけないでよ。最初は怒り、暫くすると呆れた。
どうやらうちの母親は、当時付き合ってた男の人の元へ行ってしまったらしい。再婚とかしてるのかどうかも分からない。そもそも、関係自体続いてるのかどうかも分からない。


けど、こちらを気遣い、自分たちの事をノロケる脳天気な手紙は定期的に届いたし、このマンションの家賃や光熱費は払ってくれてるみたいだし、食費や学費なんかの生活費も全部毎月振り込まれてる。だから、特に困ったことは無かった。




-そりゃ、ま。

ーひとりで、寂しいなって思うことも、あるけどさ。




あたしは玄関で靴を脱ぐ。
そのまま室内に入る。
キッチンを通って、リビングへ続く扉を開ける。
目に入るものは、テレビ、ダイニングテーブル、椅子、カーペット、その他もろもろ。
簡素で、何の思い出もない物。




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