colorless
「ねぇ、あずちゃん。お願いがあるの」
「ん?」
「私、私ね。一時、美術室に通おうと思うの」
「…うん?デート?」
「…違うよ。ただ、ね。描きたいものが、やっと描けそうなの」
「…描きたいもの?」
「うん」
「そっか。分かった。一人で、行くの?」
「…うん」
「橋本は、来ない方がいい?」
「…出来れば、絵が完成するまで、会いたくない、かな…」
「…本気なんだね…。よしっ!任せて!橋本を、美術室に行かせないようにする!」
「ごめんね、あずちゃん、ごめんね…!」
「ばっかねぇ…。たまは、なーんにも気にしないでいいのよ」
「あずちゃん…、ありがとう」
「どーいたしまして。全部終わったら、クレープ食べよう?アイスにクリームたっぷりのやつ。もちろん、奢りよ?」
「…うん!」
不思議なことに、橋本くんを好きだって認めたら、やっと掴みたいものが掴めた。
…きっと、私は橋本くんが描きたかったんじゃない。
橋本くんを、好きだって想う感情を、描きたかったの。
あの、どこまでも透明で、透き通るぐらい儚いのに。
誰よりも、強い想いを込めた瞳に、恋をしました。
…橋本くん、好きです…。
あの視線の先に、誰かがいて、その人が大切なことは、分かってます。
だって、貴方がその先にいる誰かを想う心に恋をしたから。
何も、要らない。
要らない、から。
せめて。
伝えてみても、いいですか?
(水彩画に、しよう…)
絵に込めた想いを、伝えたい。
(あの儚さは、水彩で、描いて、瞳だけ厚塗りにしてみようかな…)
一筆に、想いを込めるから。
込める度に、溢れてくる感情を。
(…いくら、閉じ込めたくても、無理なんだ…。次から次に零れてくる。)
もう、私の器じゃ足りない。
…この絵が、完成したら、伝えたい。
言葉に、して。