CL
「……でもこれどっから手をつけたらいいんかまったくわからん…汚すぎる…」
「そうだろ」
「褒めよらんしー。……はあ…キイチくんっち外見だけはいいんやけどねー…部屋がこれやけんねー…」
それは褒めてんのか褒めてないのか。
「ね、左手の袋、会社でいっぱい貰ったチョコやろ?今日バレンタインやし」
「……バレてたのかよ…」
「バレんわけないやーん。これだからモテるヤツは独りにしちょったら危ないんよねー」
「……え、まさかツキコ、お前…」
「ん?えぇ、まあ、キイチくんがあたしじゃない誰かと結婚しないためにこっち来ましたよーそれがなにかー」
“てへっ”と舌を覗かせるツキコが恐ろしい。
コイツそんな理由で大学決めたのかよ……。
いいのかよそれで…将来どうすんだよ…。
とか言ったら、ツキコのことだから「え?だってキイチくんが貰ってくれるんやろ?やったら将来ぜんっぜん心配ないやん!」とかマジで言いそう。
いや、コイツなら絶対言う。
『ツキちゃん、大きくなったらキイチ兄と結婚する!』
いつだったか、ツキコが突然そんなことを俺に向かって宣言してきた時がある。
ツキコがまだ自分のことを“ツキちゃん”とか言ってた時期だから、小1くらい?
ってことは、えーっと、俺が小6か、中1か……なんかそこらへんだったはず。
もちろんその時は小さい女の子がよく言うことだと思って、俺も『あー、はいはい』みたいな軽い返事をした。