CL
「…ユウくん、帰らないの?」
本を抱きしめたまま、ただ黙ってそこに居るユウトに、わたしは平然を装ってそう尋ねる。
目線は、彼の後ろにある、本棚。
「……リナ姉は」
ズキンッ、と、痛い。
「…わたし?」
「帰んないの」
抑揚のない喋り方は、ユウトの特徴のひとつでもある。
だけどわたしは、彼の雰囲気で言いたいことはたいていわかる。
もう、10年以上、一緒に居るんだから。
「…うん。傘、忘れちゃって」
「……同じ」
「同じ?」
「俺も、傘忘れた」
「……そっか」
「…ん」
ぎこちない会話。
雨音が、やけに鼓膜を揺らす。