CL
いつからだろう、彼の前で、自然と喋ることができなくなったのは。
いつからだろう、彼の声を聞くだけで、心臓が痛いくらいに締め付けられるようになったのは。
いつからだろう、彼を……ユウトを、弟として、見れなくなったのは。
もう、それさえ覚えていない、忘れてしまった。
ずっと否定してやり過ごしてきたはずで、けれど気づいたらこの感情は、すでに取り返しのつかないほど、大きなものになっていた。
バカ、だと思う。
早く認めて、早く諦めて、早く次の人を探して、早く、結婚でもなんでも、してしまえばよかったのに。
そしたら、叶うはずのないこの想いなんて、なかったことに、できたかもしれないのに。
どうしてだろう、視界が歪む。
下を向いたまま、瞬きをしないでいたら、視界を歪ませるそれが、ぽとりと、古びた本に落ちた。
じわっと、染みが広がる。
こんな本を読んだって、わたしのこの気持ちは、どうにもできないって、わかってるくせに。
わたしはどこまで、逃げるつもりなのだろう。
逃げて、逃げて、極限まで逃げて。
逃亡の果てで、ひとり、壊れてしまえばいいんだ。
それなのに。