CL




じゃあ鞄の中に押し込んで行こうかな。でもでもそれってたぶん渡すタイミングなくしちゃうよね。手に直接持ってるときの方が勢いで渡せるよねそうだよね。

でもでもでもでも絶対にバーレーるーッ!!


あたしは出窓に拳を叩きつけたり額をぐりぐりしてみたり頭を抱えてみたりしながら、それでも向かいの家の玄関が開くのを今か今かと待っていた。

結局あたしは、今日がバレンタインでもそうじゃなくても、アイツが玄関から出てくるのを待ってしまうんだろうなと思う。

玄関から出てきたアイツの様子で、今日は機嫌がいいとか悪いとか、ちょっと風邪気味かなとかダルそうだなとか、そういうのがわかるから。16年間一緒に居たあたしならすぐにわかる。

これは絶対クラスの女子にも負けはしない。自信ある。


そう思ったら、ちょこっとだけ勇気がわいてきた。あたしって単純なヤツだ。

ようやく落ち着いてきたところに、向かいの玄関が開いた。


出て来た…!

今日は明るい色のマフラーをぐるぐる巻いて、わからない程度に染めた赤っぽい癖っ毛はぴょんと跳ねてる。あれは絶対寝癖。

学ランが今日も似合ってますね。ちくしょうかっこいい。


ヤツは玄関から出てくると、それが自然だとでもいうように、あたしの家に向かって足を進める。

16年間、どちらかに事情がなければ必ずと言っていいほど一緒に学校へ行ってる。あたしたちにとって、一緒に学校へ行くというのは特別でもなんでもなくて、ごく自然な朝の恒例行事なのだ。

それもそれでなんか複雑だけどね。





< 39 / 192 >

この作品をシェア

pagetop