CL
もうバクバク。ドキドキじゃない、バクバク。
そんなこと言われたの初めてだった。なにそれ、なにそれ、どういうことなの、教えてよナオ。
それはどういう意味の“好き”?深い意味がある?ない?
あってもなくても、どうせあたしは期待する。だってナオは、普段そんなこと言わないから。
なに、もう。なんなの、バカナオ。ホント、ズルイ。
「…あー、そろそろ学校行かんとヤバいな」
携帯の時計を見ながらナオが立ち上がった。
ぐるぐる考えていたあたしも、必然的に立ち上がらなきゃならなかった。だって一緒に行きたいから。
「んじゃ、おっちゃん放課後来るけん。チョコケーキとショートケーキ、とっちょってなー」
「はいよー。いってらっしゃい」
「いってきまーす」
ナオの後に続いて店を出ながら、あたしもおっちゃんに「いってきます」を振り返ってから言った。
そしたらおっちゃんは、口パクで『がんばれ』って言った。
どうやらおっちゃんは気が付いていたらしい。あたしが可愛い紙袋を持っていることに。
これを渡したい相手が誰なのか、もしかしたらそれもわかっているかもしれない。
くそう。おっちゃんってばカッコいい。
あたしは笑って『うん』と頷いて、先に行ってしまっているナオの後を追った。
初めてナオが言ってくれた、あたしに対しての“好き”
先を越されてムカつくから、あたしもお返しに言ってやろうと思う。
「――ナオっ!」
16年間見てきた大好きな背中を追いかけて、振り返ったいとしの幼馴染に。
あたしのは心の奥底で、16年間温めた、ありったけの恋を叫んだ。
end.