CL
「……ハナ、今泣きそうやろ」
頭上から降ってきた声に、あたしは思わず視線を持ち上げた。
ナオは少しだけ困ったような色を混ぜた笑みを浮かべていた。
「俺ね、そういうんならわかる」
「……え」
「ハナが今泣きそうやなあとか、悩み抱えてんなあとか、今日いいことあったんやろうなあとか、今ケーキ食べたいんやろうなあとか、幼馴染としてのハナならわかる」
「…………」
「やけどさ、彼女になったハナのことはまだわからんの、俺」
「…………。あ」
そっか。
今まであたしとナオは、ずっと、ずーっと“幼馴染”という枠の中に居たんだ。
だからそれを飛び越えた時のお互いのことは、まだ未知の世界と同じようなもの。
なんだ、そっか。そうだよね。
いくら16年間一緒に居たからって、知らない世界のことをわかってほしいなんて、いきなり無茶振りもイイトコだよね。
だって、そうだ。
あたしだって、彼氏としてのナオを何も言わない状態で理解しろ、なんて言われたら、難関大学に合格するよりも難しいかもしれない。
なんかあたし、ひとりで突っ走りすぎてた?
「……って、ことやけん。ハナ、なんで怒っちょんのか、教えて?」
「…………。うん」
あたしはようやく納得して、今の今まであたしが怒っていた理由を、全部ナオに話した。