CL




『…黒崎くんって甘いものダメなの?』

『ダメっていえば、ダメですね』

『なにその曖昧な答え』

『たぶん食わされたのが工藤さんからだったのが最高に嫌だってだけですよ』

『贅沢ー。あんな可愛い子にチョコもらえたってだけで神様に感謝しなさいよ』

『可愛い子にチョコもらうより、一番好きな人にひとつだけもらう方が俺的には最高に嬉しいですけどね』

『あらそう』

『例えば、先輩とか』


……まただ。

掴みどころのない笑みを浮かべて、またそんなことを言う。

入社直後から、この黒崎とかいう男はどうも苦手だ。

軽いのか、実は優しいのか、ホントは誰も好きじゃないのか。

浮遊しているように、表情を隠すがごとく微笑を浮かべ、けれどたまに地に足をつける瞬間がある。

本音がどれなのかわからない。

私のことをからかいたいのなら別にいいけれど、私に向かってそんなことを言う時だけ、嘘かホントかわからないように誤魔化すのだけはやめてほしい。

嘘なら嘘だって、冗談っぽく言いなさいよ。じゃなきゃ私の心臓がもたない。


『……あ、そう…』


やっと口から出てきた言葉は、たったそれだけ。

お湯はまだ沸かない。




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