CL
けれどそれも、私の脳がようやく乾ききった目を潤そうと思ったのか瞼を閉じ、そして目を開けた時には、黒崎はいつもの掴みどころのない笑みを浮かべていたから、見間違いなんじゃないかと勝手に思い込んだ。
『……先輩』
『…………』
『…お湯、沸いてます』
『…えっ、あっ!』
ピーッ!と。
そこでやっと、やかんがお湯の沸騰を叫んでいることに気が付いた。
我に返った私は、慌てて火を止めて息をつく。
そこへ黒崎。
『チョコ、本命が居ないってことは、俺にもチャンスありって受け取らせてもらいます』
『な、なんの話っ……』
『俺が居るところで他のヤツに義理チョコ渡すとかいい度胸ですよね』
『や、だから、なんのっ……』
『じゃ、宣戦布告はしましたから』
だから、なんのだ!
そう叫びたいのはやまやまなのに、言葉は上手く出てこない。
自分で思っているよりも、私の脳内はだいぶ混乱しているらしい。
そんな私にはお構いなしに、黒崎は給湯室を出ていく。
そうかと思ったら、『あ』と何かを思い出したように、肩越しに私を振り返り。