CL




『先輩、キスするときくらい、目、閉じてくださいね』

『んな……っ』


それじゃ、と。

今度こそヤツは給湯室から姿を消した。

結局、私は黒崎に何も言い返せないまま、その場に立ち尽くすことしかできなかったのだ。





そんなわけで、今日一日私はまったく仕事が手につかない。

なんていうか、黒崎に会いたくなくてデスクから動きたくない感じ。

でもヤツは同じオフィスに居て、わざとみたいに目が合うとこそっと笑いかけてくる。あの掴みどころのない余裕な笑み。

こっちを見るな!笑いかけるな!あんたのせいで私は今日ぜんっぜん仕事できてないんだから!

…なんて、目が合う時点で、私も実は目で追ってしまってるんだろうなってことくらい、痛いほどわかってるけど。

そもそも、あんな大胆に宣戦布告してきた相手を気にしないなんて方が無茶なのだ。ましてやキスされた相手なんか。

もう頭の中はぐるぐるで、仕事のことなんかまったく考えてなんかなかった。

だからこんなことになったのだ。

定時なんてとうの昔に過ぎ去って、オフィスに誰も居なくなる時間まで仕事やってるなんて、こんなこと。




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