CL
驚いて振り返る。腰を折って私の耳元へ顔を近づけていた黒崎と、目と鼻の先で視線がぶつかった。
昼間の給湯室での出来事が頭をよぎって、首元が微かに熱くなるのがわかった。
「…正確には、残業してる先輩が、心配で会いに来た、ですけどね」
言いながら、彼は私の顔を包むようにスッと右手を持ってきて、親指で涙の跡を拭った。
「泣いてたんですか?」
「…欠伸しただけ」
「下手な言い訳ですね」
「笑いたければ笑えばいいじゃない」
バカにする要素なんていくらでもあるでしょ。
まさに今、私が残業してるってところ、バカにするネタのひとつじゃない。
なのに黒崎は、「笑えません」と言って、隣のデスクから椅子を引っ張ってきて、そこに座った。
居座らないでよ!帰ってよ!あんたの仕事は何もないでしょ!
…なんて、心の中だけで叫んだって、黒崎には届かない。
私が恨みの念を込めて横目で睨んでいるというのに、この男は気づくどころか、スーツのポケットから何かを取り出して、それをこちらに差し出してきた。
差し出されたのは、金色と茶色の細長い包み。