CL
黒崎の手が私の頬にかかる髪の毛を持ち上げて、耳にかける。
顔を隠す髪の毛がなくなって、私は更に焦る。
黒崎の左手は私の腰に回っていて、必然的に両手が自由になった私はどうにか狼と化した後輩を押し戻そうと、黒崎の胸板に両手を突っぱねる。
だけどその腕には力なんて入ってない。入れられない。完璧に拒否ができないくらいに、私は彼が好きらしい。
黒崎が私に顔を近づける。その綺麗な顔に思わず見惚れてしまいそうになるけど、焦りと恥ずかしさの方が先に立った。
「ま、待って、待ってってばっ…!」
「もう十分待ちました」
「わ、私、その、まだ、心の準備がっ…!」
「すみません、俺も限界なんで」
「そ、な、待って、くろさっ…」
「先輩、黙って」
ぎゅっと目を閉じる。掠れたような声がすぐ傍で聞こえる。唇に吐息がかかる。
黒崎を突っぱねていた私の両手は、抱き寄せられたその間で、あっけなく折りたたまれていた。
唇が触れる。昼間はそれで離れた彼の唇は、けれど今回はその様子を全く見せない。
私の唇を舌でなぞり、閉じられたままのそこを開けようとする。
自然、酸素が欲しいというようにうっすらと開いてしまった唇の間に、迷いなく黒崎の舌が入り込む。
歯の間も難なく割って侵入してきたそれは、私の口内を丁寧になぞる。
頬の裏、歯並び、その裏、舌の裏、上顎、下顎、全部。
ゆっくりと、丁寧に。撫でるように、優しく。
舌を絡め取られて「んっ」と声が漏れる。そこで角度が変えられる。
一瞬だけ空いた間から、はあ、と吐息が溢れ出す。
酸素不足で、思考が停止していく。徐々に溶けていく、そんな感じ。