CL
→After Story
見てはいけないものを見てしまったあとに限って、その当事者は妙に視界に入ってくるものだ。
それは私が気になってしまっているから、無意識の内に目で追っているのが原因なんだろうけれど。
厄介な話で、気にしたくないと思っていると逆に気になってしまうから、人間っていうのは面倒くさい。
私だって、いちいちアイツを目で追っていたくなんかないし、ましてや、昨日見てしまったことがどうしても頭から離れなくて仕事が進まなかった、なんて本当に冗談じゃないのだ。
しかも、結局残業だなんて言う、そんな仕打ち、ありえない。
「はあー……」
私はデスクに両肘を置き、頬杖をついて項垂れる。
なんか、こんなことがあの日もあった気がする。
2月14日の、あの日。
今日みたいに、アイツのことばっかり考えてしまって、残業になってしまった、あの日。
今思えば、あれも夢だったように感じてしまうから、もうたまったもんじゃない。
外は大雨。オフィスは薄暗い。外の夜景なんか雨に霞んで、いつもの輝きもなりを潜めている。
今の天気はそう、まさに私だ。
「……もうヤダ…」
まさか、またもやアイツのせいでこんなことになるなんて。
そりゃあ、常日頃いろいろ悩むことはあれど、それはいつも彼自身がちゃんとわかってくれて、私を安心させてくれてはいたけれど。
今回のことは、冗談でも本人に聞くなんてできない。
昨日の夜、偶然街中で見かけた彼が、知らない女の子と歩いてたなんて、そんなこと。