CL
……あ、思い出したらちょっと泣きそう。
だって、考えたこともなかった。
もしかしたら、浮気されてるかも、なんて。これっぽっちも。
「……見つけた」
不意に聞こえた声。
それは、私が一番好きな声で、けれど今は一番聞きたくなかった声で。
だけど自然、顔を上げて声の方へと振り向いてしまうのは、やっぱり自分の気持ちがニセモノではないから、だと思う。
「……黒崎くん」
オフィスの入り口に立っていたのは、帰ったはずの後輩、兼、私の恋人、黒崎。
さきほどから、私がずーっと思い悩んでいる元凶だったりする。
彼はいまだにスーツ姿だから、家には戻っていなかったようだ。
黒崎は少し息をついて、私のデスクへと歩いてくる。
「どこ行ったかと思いましたよ」
「……なんでよ」
「今日、先輩傘持ってないって言ってたんで、待ってたんですよ、俺」
「……そ、そっか…」
「っていうか、また残業ですか?」
「うるっさい」
「懲りない人ですよね、先輩って。そろそろ学習したらどうですか?悩んでても仕事は終わってくれませんよ?」