CL
「……帰らないの?」
「帰りますよ」
「そんな風には見えないけど」
「先輩こそ」
「……私のこと、待ってるの?」
「だから、さっきもそう言ったでしょ」
でも、と、彼は言う。
「先輩は、俺の傘に入る気、なさそうですしね」
「…………」
「違いますか?」
「…………っ」
返答に困った。
たしかに私は今、黒崎と一緒に傘に入る気はない。というか、勇気がない。
気まずさに耐えられる保証が私の心にはなかったのだ。
……あぁ、もう、どうして昨日、私は夜に出かけてしまったんだろう。
出かけなければ、あの光景を見ることもなかったし、こんな気持ちになることもなかったはずなのに。
私はきゅっと口元を結ぶ。それを見てか、黒崎は隣で小さなため息をついた。
「…どうしてそんなに怒ってるのか、言ってください」
「…………」
「話してくれなきゃわかりませんよ」
「…………」
どれだけ黒崎に促されても、私は口を開こうとはしなかった。