CL
だって、どう話したらいいかわからない。
“浮気してるの?”って聞いて、“はいそうですよ”なんて答えられたら私は一体どうしたらいいの。
そうしてずっと黙っていた私に、黒崎は言う。
「……“ごめんなさい”」
「……え」
「…って、言えば気が済むんですか?」
「…………ッ」
「違うでしょう」
「…………」
「どうしてほしいんですか」
「……どう、って…」
「俺にどうしてほしいんですか、先輩」
“言ってください”と、黒崎はまっすぐに私を見つめてそう告げた。
私は思わず視線を逸らした。
言えない。どう言えばいいのかもわからない。返ってくる答えが怖い。自分に自信がない。
だってこの世には、私よりいい人なんてごまんといる。
容姿も頭脳もすべて完璧な黒崎と私が不釣り合いだなんてこと、自分が一番よくわかってる。
だから逃げた。
逸らした視線の先に見えたタクシーを、逃げたい一心で止めた。
タクシーが私に気づいて車体を歩道に寄せて停車する。
私は大雨の中そのタクシーに駆け寄り、開いたドアから隠れるようにタクシーに乗り込んだ。
逃げたい。とにかく逃げたい。