CL
昨日の夜一緒に歩いていたのが妹さんだということも、真実なんだって、黒崎の目を見ていればわかる。
会社の女の子たちから誘いを受けても、すべてきちんと断っていることくらい知ってる。
なのに私はまだ、不安を完璧には拭えない。
どうしてだろう、何か。まだ何か私の中にしがらみがある。
そうして顔を上げない私に、黒崎は静かに言う。
「……それとも、覚えてないんですか、あの日」
「……あの日?」
「2月14日のこと、忘れたとは言わせませんよ?」
「…………っ」
具体的な日付を言われて、鮮明に思い出すあの日。
私はあの日初めて、本気でドキドキする恋を知ったのだ。
教えてくれたのは、紛れもない、黒崎。
給湯室での宣戦布告、彼が私の頬を包む手、温度、胸の高鳴り、そしてチョコレート味の甘いキス。
忘れられるはずがない。
全部鮮明に憶えてる。
「……お、おぼえてるよ…」
「憶えてるのに、不安なんですか」
「え……」
「あの時、俺がどれだけ先輩のこと好きか、伝わってなかったですか?」
「そ、れは……」
「入社した時からずっと好きなんですよ、先輩のこと」
「…………っ!」
突然の再告白。
心臓飛び出るかと思った。