CL
なけなしの強気を口にして、私は震える両手を黒崎の背中に回した。
抱き締められるのはとても心地よくて、けれど鼓動は速いまま。
不思議な感覚だ。
なんだろう、この感覚をすべてまとめて言ってしまえば。
「……好き、黒崎くん」
たぶんきっと、こういうことだ。
本当におかしな話で、こうして気持ちを隠さず口にするのは、恥ずかしいけれど、嫌じゃない。
私の背中に回っていた彼の右手が、ゆっくりと後頭部へ向かい、髪の毛を撫でる。
それがなんだかくすぐったくて、少し身をよじると、抱き締める力が僅かに緩んだ。
そうして出来た数センチの距離で、静かに見つめ合う。
私の髪の毛を撫でていた手は、いつの間にかその動きを止めていて、今度は私を引き寄せる。
抵抗する、なんて選択肢が、私の中には0だった。
唇が重なる。軽くついばんで、離れ、また重なる。
じゃれて遊ぶような、触れることを楽しむようなキス。
こんなキスもいいなあと思う。
付き合い始めて1ヶ月とちょっと。
黒崎は時々、甘いキスをくれるだけだったから。こんなキスもしてくれるんだってこと、知らなかった。
私はまだ、きっとまだ彼のことを知らない。
黒崎に妹が居ることも知らなかったし、家の場所も今日初めて知った。
家の中はとてもシンプルな家具ばかりで、でもちゃんと生活感があって、なんだか黒崎くんらしいなあ、なんてことも今日知った。
まだまだ、私は彼について知らないことの方が多いのだ。
だからこれから、少しずつでいいから、知って行けたらいいなと思う。