人こそ美味 part2
「その先輩って?」
「本名は知らないけど、エリカって呼ばれてます」
「犯人はそのエリカで間違いないね」
腕を組み何処か遠くを見て、考え込む姿はとても頼もしい。
この人も先輩が拉致したのかな?
「あ、君の名前は?」
思い出したかのように、私を見た。
「私の名前は佐々木麻央(ササキマオ)です」
「僕は…」
男性の言葉を遮る様に鉄格子の向こう側__白い扉をドンドン叩く音が響いた。
『じゅんー?遅いんだけどぉ』
一瞬自分の耳を疑った。
外から聞こえて来たのはエリカ先輩の声。
やっぱり先輩が犯人だった。
でも“じゅん”って?
まさかっ……!?
「…チッ」
男性は舌打ちをして立ち上がった。
「邪魔しやがって…」
そのまま鉄格子の扉に向かって歩き出す。
その時、私は悟った。
何も知らないのは私だけ。
拉致されたのは私だけ。
男性は鉄格子の扉を開け、鍵を閉める。
チラッと私に目を向けた後、白い扉の向こうに消えてしまった。