【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~
…こうして、今も、温かな光の中に自分がいることを時折不思議に思う。
「……」
伏せた視線に自分が手を添えた紅茶の注がれたティーカップ…微かに揺れる琥珀色の液体にぼんやりとしたあたしの顔が映っていた。
「…陽世さん?」
「…!」
不意にかけられた可愛らしい声にハッと覚醒する。
顔をあげると可憐な美少女が心配そうに眉を寄せ、あたしを見ていた。
「あぁ…ごめんなさいね」
緩く首を振り、大丈夫だと彼女に向かって微笑んだ。
…いけない。
今日は待ちに待った日だというのに。
「少し、昔を思い出していたみたいですわ……“姫君”」
心配そうにしていた顔が次第に紅潮し、少女の瞳がきらめき始めた。
「!もしかして、橙伽さんのことだったりしますかっ?」
ずっと逢ってみたかった若様の大切な姫君はとても可愛らしい方だった。